初動調査で考えること
令和7年6月4日
一級建築士 片山 繁行
調査の依頼があったとき、依頼者と最初にどんな資料があるか、そろえてもらえるかを聞きます。
病気になったとき、血液検査などのいろんな検査を行い その上で、病名を診断することと同じく、資料がたくさんあった方が、調査内容が正しく報告出来る。また、隠れた問題も見えてくる。
依頼(相談)内容にもよるが、基本は下記の通りである。
さらに、構造上の問題であれば.地質調査報告書、構造図 設備の問題であれば、設備施工図(竣工図)などが必要である。
ところが、調査依頼の建物は、このような資料が非常に不足しているか、ほとんどない、または、施工会社が「ない」と言っていることも多い。 初動調査の段階では、手元の数少ない資料から、不具合現象の原因を推定し、さらに隠された問題がないか、考える。現場で確認し、問題が大きいと考えた場合、破壊検査などに進むことも多い。
事例 1 雨漏りと結露
調査対象は、9年前に新築された鉄骨造 外壁ALC(軽量気泡コンクリート)版張りの建物です。西側と東側の内壁に黒いシミが出ました。カビのようです。カビが生えるという現象は、どこかからか水が漏れているという可能性が強いということです。 建物の漏水は、①雨漏り、②結露、③AC(空調機)のドレイン管からの漏れ、④給排水管の漏れ の四つが考えられます。 そこで、四つの原因を一つづつ検討し、最終的に 原因は壁の中の結露と考えました。 理由としては、亜熱帯的になっている最近の気候にもかかわらず、断熱材が外壁に全く施工されてなく、外壁ALC板そのままで、その中に軽量鉄骨下地の上にボード張の施工でした。 当初 設計監理者は、ALCは断熱性能があると説明し、結露の可能性を否定していましたが、最終的には、壁を解体し、状況確認し、結露であることを認めました。 ALCに断熱性能があると言っても。コンクリートに比べ断熱性能が良いというだけで、断熱材に比べると、1/10ぐらいです。
事例 2 床下の配管
調査対象は、10年前に新築された鉄骨造で、元々畑を埋め立てて建てた建物です。北側から南に下がっており、現状でも南側隣地と3m以上の段差があります。 南側に1m程度の犬走りがあり、その犬走りが下がっている(下の土が流れて、なくなっている)ので、調査してほしいとのことでした。
建物自体は、杭が施行されており、下がっている可能性は少ないと判断できました。 建物の床下(土間コンクリート)は、南側のワンスパンだけ 地盤改良が深さ1m設計されていました。その他の箇所は 地盤改良は、「なし」の設計でした。 犬走りに置かれていた、AC室外機と外壁サイディングの接続部分、縦樋と犬走りの雨樋受けの接続部分が外壁を引っ張っており、修繕の必要性がありました。
問題なのは、見えない床下の給排水管です。給排水は、南側から北側に配管してあります。 地中梁は、杭のため沈下しない。配管は土の中(土間コンクリートの下)にあり、軟弱土が沈下していく。そうすると、地中梁と地中梁の間で、U字形にたわんで行き、最悪の場合は、破断します。 マンションの事例で同じ現象(土間コン下の排水管の破断)を2回調査、補修工事に立ち会っています。 今回の事例は、マンホールからTVカメラを入れ調査することになっていますが、どうなるのか、進行中の事例です。
まとめ
初動調査を始めるにあたり、まず資料をできる限り集め、特に見えなくなっている隠れた施工部分の写真(ないことが多い)が大事です。 次に、不具合現象の原因を推測、さらに隠れた問題がないか考えることが大事になります。建築現場を知っていることに加え、調査経験も大事になります。そう意味で、欠陥ネット東海での建築士の育成が望まれます。