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建築士のひと言

一向に減らない住宅の地震被害

令和6年5月1日

一級建築士 纐纈 誠

 1月1日に能登半島で大きな地震が発生し、被害も甚大なものとなった。

 つい2~3日前に、福井県にある大飯原発3号機、4号機の再稼働の差止め判決(平成26年5月21日)を言い渡した元福井地裁の裁判長で弁護士の樋口英明氏(注1)の話をテレビで聞いた。その中で、大飯原発につき、「(関電が設定した)700ガル程度の加速度の基準地震動では、実際に日本で発生している大きな地震に対応できない。」との趣旨の話をしていた。

 また、元裁判官が地震の加速度の話をしているのに驚き、興味をもって判決文を読んでみた。差止め判決では、“人格権”を元に、大飯原発には(関電が既往最大(今までの最大)としている)1260ガルを超える地震は来ないとの確実な科学的根拠に基づく想定は本来的に不可能である。また、地震や津波等の自然災害については、既往最大の考え方に基づく安全対策がとられなければ、その原発において過酷事故が起こる具体的可能性があると認められるべきである。地震動の加速度を示す尺度であるガルとしては少なくとも平成20年6月14日に発生した岩手宮城内陸地震で観測された4022ガルを想定すべきである。」としている。

 わたしも、住宅について、「人は安全な家に住む権利がある。」と考え、常々、400ガル程度の加速度の地震で倒壊しないようにすることを目的としている建築基準法の構造耐力基準を問題視していた。

 先日、テレビで或る大学教授のコメントも聞いた。曰く「地震被害から復旧する費用より、地震被害を予防する費用のほうが安価である。」というものである。稀に発生する大地震に対して安全な建物とすることが経済的に有益なのか、または、稀に発生する被害に遭ってから復旧に費用を使うのが有益なのか、考える時期にあると思う。そもそも、今日、日本に頻発している大地震が稀なのかという問題もある。

 わたしは、前々から言っているが、例えば木造住宅で、建築基準法が求める耐震強度の二倍の強度にしようとすれば、筋交いを二倍にするだけであり、その費用は10万円で足りるのである。その程度の補助は可能であろうし、被害を受けた後での国家予算、すなわち国民への負担も低減できて、極めて有意義と考える。そして、大地震に対して安全な建物とすることの方が有益であるなら、建築基準法関連法規をもって基準を定めるのも一つの方法ではないかと考える。

注1:
 その判決では、はじめに、「ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な損害を及ぼす事業に関わる組織には、その被害の大きさ、程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。このことは、当然の社会的要請であるとともに、生存を基礎とする人格権が公法、私法を問わず、すべての法分野において、最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。したがって、この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、その侵害の理由、根拠、侵害者の過失の有無や差止めによって受ける不利益の大きさを問うことなく、人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できることになる。人格権は各個人に由来するものであるが、その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき、その差止めの要請が強く働くのは理の当然である。」としている。
 なお、樋口英明裁判長は平成27年4月14日には関西電力高浜原子力発電所の再稼働も認めない決定をしている。