欠陥住宅をつくらない住宅設計者の会

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建築士のひと言

熊本地震 益城町-阿蘇神社-熊本城の現況視察を終えて

平成29年2月15日

一級建築士 滝井 幹夫

 地震発生から約9か月後の「今」を建築士3名、弁護士及び名古屋市会議員各1名の計5名で、1月22~23日に視察に行って参りました。
 熊本空港に降り立った私たち一行は、時おり小雪や氷雨降る中をレンタカーに乗って、最初に地震被害の最も激しかった益城町へ向かいました。
 車窓から見ても解体済みの更地や崩れたままの建物、ブルーシートに覆われた建物が徐々に増えていく中を益城町に入りました。
 目的のバリアフリー仮設住宅を探す迄に、車窓や短時間降車して従来型のプレハブ仮設住宅を何ヵ所か見た後で、やっと目的の仮設住宅に到着しました。
 第一印象は、これまでの仮設住宅と格段の違いが感じられ、バリアフリー機能は当然ですが、木造が醸し出す温かさ、6戸が対面する共用デッキ広場、深い屋根と庇、床面が上げられ防湿対策がされている事、ちょっぴり建築士の知識発揮で窓がペアガラスであった事等が見て取れました。
 外出する住人に短時間聞き取りの結果は「快適で満足している」と言われた。

 残念ながら内部視察が叶わない為に、内部の状況やこの仮設実現の経緯を知りたいと思い、帰ってきてから益城町役場と熊本県庁 住宅課へ電話聞き取りで分かった事をネット映像と下記コメントをご覧下さい。

ネット映像 益城町仮設住宅で検索

撮影:谷川照雄

 熊本県下全体で仮設住宅が4303戸、その内683戸が木造で、被害最大の益城町には木造を含めて1500戸が建設された。
 大量に早期の設置が求められる応急仮設住宅の全てを木造とする事は不可能だが、熊本県は平成24年の九州北部豪雨被害の仮設住宅に48戸を木造とした経験があり、早期復旧が何よりだが、その後の復興も大切と考えている。
 それには、材料を最大限地元産とし、建設業者も地元の受け入れ態勢を整える努力を行った。
 これにより、地域循環型の復興事業に役立っていると考えている。
 仮設住宅の基準面積は29.7㎡だが、国の了解があれば面積や機能の追加が認められ、益城町のバリアフリー住宅は面積37.3㎡で、標準プランの3DKを2DKとして室内で車椅子が回転出来るように改良し、その他のバリアフリー、断熱・遮音性能も盛り込んだと言われ、納得と同感です。
 次の目的地は阿蘇市 阿蘇神社だ。車窓から見る熊本市内の幹線道路沿いの地震被害は目立たないが、垣間見える裏側付近にはブルーシートが散見され、復旧途上の様子が推察出来た。
 車は、阿蘇山の山裾に差し掛かると雪が舞い、広大なカルデラ台地の一画を走り抜けると阿蘇神社だ。
 ボランティアガイドの案内で、阿蘇神社は社記によれば約2300年の歴史があり、「肥後一の宮」と呼ばれて、熊本県下を始め多くの人の信仰を集めている。今回の地震で日本三大楼門の一つの「楼門」倒壊を含めて、多くの国指定重要文化財が倒壊等の被害を受け、目立たない建物にも被害があり完全復旧に10年、費用に約20億円がかかる予想で、調査が進めば更に増える可能性がある。と言われました。既に倒壊建物は跡形も無く記録確認による以外に術は無い。
 地震被害前後の対比が分かり易いと考えます。ネット映像をご覧下さい。

ネット映像 阿蘇神社地震被害で検索

 一日目の視察は終わり再び阿蘇山のカルデラ台地を走り、内牧温泉 阿蘇プラザホテルに到着した。
 日曜日なのか客が少なく半ば貸し切り状態で入浴、食事なども至極のんびりしたものであった。

 

 二日目はメインの熊本城だ。辺り一面銀世界の中を阿蘇山カルデラ台地から下山し熊本城へ到着した。それにしても寒く手足が凍えた。
 同行市会議員の尽力で、熊本市議会事務局 主任主事の平野氏と、熊本城総合事務所 所長の河田氏の案内で視察が始まったが、残念ながら建物直近や内部視察は叶わなかった。

 至る所の石垣、塀が崩れ、地面のひび割れが残り大天守の鯱・瓦落下、各櫓等の崩壊や破損、堀内に残ったままの落下した石や土砂、崩壊防止のフレコンパックやネット・シ-トの設置、復旧の為にナンバリングされた石の置き場、重要文化財としての復元を目指す、広大な木材仮置き場と保存庫、山と積まれた土砂の山があちこちに残り復旧の困難さが推測された。
 ここでも地震被害前後の比較が有効と考えます。ネット映像をご覧下さい。

ネット映像 熊本城地震被害で検索

 修復に10年以上と現段階概算で約634億円が必要で、その内石垣等の外構修復が約425億円を占めると説明を受けた。
 今、名古屋城天守閣の木造再建論議がされていますが、石垣等の外構補強・補修を後回しにしたまま大地震が発生した時、外構等被害の大きさが危惧されます。

 

 私たちに関係の深い住宅の地震被害について、1月25日のNHKテレビ番組 朝イチ「あなたの家は大丈夫」が放映されました。
 益城町の木造住宅被害に関する日本建築学会調査を基に編集した内容ですが、

建築基準法1981年以前
旧基準
2000年以前
新耐震
2000年以降
最新基準
改定の概要 耐力壁量規定バランス、接合部
被害率約95%約80%約40%

 改定に順じて耐震性能の向上は明らかであるが、問題は最新基準でも40%の被害があったと言うことです。
 その原因は、地盤状況、施工精度等の多くの要因が有って単純な比較は危険だが、一つの指標として重要です。
 約10年前に新築された2戸の木造住宅被害を比較した結果、被害の殆ど無かった家(A)と倒壊した家(B)の大きな違いは柱と耐力壁の直下率の大小であったと説明された。

 (A)柱―58.7%、壁X方向―93.2%、Y方向―92%
 (B)柱―26.4%、壁X方向―12.5%、Y方向―14.3%

 

 従来、木造住宅は3尺(91cm)を基準モジュールとして造られて来ましたが、それ以外の寸法単位で造る場合を「間崩れ」と呼び、上下階の柱、壁の位置が揃わず、耐震性能の劣る事を構造知識のある建築士は以前から知っていました。
 「素人にも出来る間取りの設計」等々の雑誌普及が家造りを身近とした半面、それを基にあまり専門的な吟味をしないで設計が行われるケ-ス、住宅会社の標準プランにオプションを加味した営業マン等による平面図作成、構造に無知なデザイナー建築士の存在等が耐震性能の低い家を生んで来たと考えます。

 また、限られた敷地内に、建物内の車庫や、1階に広いLDKや吹き抜けを設 け、2階に個室を多く設ける最近の傾向は、1階の耐力壁が少なくなり易く、柱や壁が繋がらないことを生み、直下率を低くします。
 対策として、合板等で床面を強くする(水平剛性の強化)、吹き抜け周囲の横架材補強等、専門的な工夫が直下率の低さを一定程度カバ-出来る可能性があります。

 基本に立ち返ることになりますが、家を造る場合はデザインだけでなく構造や設備を含めた、総合的な専門知識を有する建築士(設計者)やチ-ムを、如何に選ぶかが先決と思います。
 また、欠陥住宅紛争解決に当たっても、同様な視点が大切と考えます。

以上